はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 210 [ヒナ田舎へ行く]

スペンサーがふらふらとキッチンに入ってきた。手には白地に青い花模様のティーポット。ダンがヒナのために用意したものだ。

「ダンならいないぞ」ブルーノは読んでいた新聞から目を上げずに言った。

「は?俺はヒナの紅茶を取りに来ただけだ。さっさと入れろ」

ふんっ!白々しい。ヒナに紅茶のおかわり?ダンに用でもなければ、スペンサーがわざわざここまで下りてくるはずがない。

「はいはい」ブルーノは間延びした返事をすると、ヒナ専用の小さなティーポットをスペンサーから受け取った。

手元の大きなポットから、紅茶を注ぎ、スペンサーに差し出した。
さっきまでダンと一緒に飲んでいた紅茶の残りだ。完全に冷めているので、ヒナにはちょうどいい。

「ところで、ダンはどうした?ヒナが気にしていたぞ」スペンサーはティーポットをテーブルに置いた。

「部屋に戻った」ブルーノは簡潔に答えた。

何度もあくびをするので休むように言ったのだ。夕食の支度はカイルがいれば手が足りるから、それまでおりてこなくていいと。

「そうか。まあ、独りになりたいときもあるだろうな。今日はヒナがやたらと騒がしかったしな」

「騒がしいのはいつものことだ。それよりあれを見た後のヒナの態度の方が気がかりだろうな。わざわざ口止めしたのか?」ヒナがなにも言ってくれないと、ダンは拗ねていた。もちろんそんなことは口にしなかったが、ダンの態度を見ていればそのくらいは想像できる。あれは絶対拗ねていた。

「いいや、まさか。ヒナに見せるようにという指示だったが、見せた後のことまでは知るもんか」

「家系図にこの土地を俺たちから奪った祖先の伝記、それとただの緑色の石にしか見えないエメラルドの原石。がらくたばかりで、どれもヒナを落ち込ませるには十分だったって事か?」ブルーノは冗談半分に言い、実際ヒナは何に落ち込んだのだろうと考えを巡らせた。

「書物に関しては、ヒナは全く読めなかった。けど、エメラルドを見たときのヒナの反応はちょっと変わっていたな。原石だからたいして興味を示さないと思っていたが、じっと見つめたまま、ぼそぼそと何か言っていた。うまく聞き取れなかったが、お母さんがどうとかそんな事を言っていたような気がする」

「お母さん?エメラルドが好きだったとか?」

「さあな。まあ、どちらにせよ、ヒナはすっかり元通りだ。カイルと二人できゃきゃあと」スペンサーはうんざりと肩を竦めた。

「さすがはヒナ。立ち直りが早いな」ダンが気にしていたから教えに行ってやろうか?

「ああ、そうだ。俺はちょっとやることがあるから、ブルーノ。お前がこれを持って行ってくれ」スペンサーは指先でポットをトントンと叩くと、くるりと踵を返し、瞬く間にキッチンから出て行った。

ダンのところへ行く気だと、すぐに分かった。

後を追ってやろうかとしばし悩んだが、結局ブルーノは居間に向かった、

つづく


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ヒナ田舎へ行く 211 [ヒナ田舎へ行く]

その夜、ヒナは窓の外を見ながらジャスティンのことを思った。

雨のせいでまるまる二日も会えなかった。ロンドンにいたときもしばしばそういうことはあったが、ヒナの想いが通じてからは(完全なる両思いだったのだが)初めてだった。

もしも明日も雨でも、ここでじっとしてなんかいないから。ヒナは全くの闇に向かって舌を突き出した。

「雨は今日までだってブルーノが言っていましたよ」ヒナの髪を梳かしながらダンが言った。

「スペンサーも言ってた」ヒナはきちんと椅子に座り直し、ダンに頭を預けた。今日は屋敷中をうろうろしたので、ダンが念入りに頭を洗ってくれたのだ。マッサージもいっぱいしてくれた。

「では明日は旦那様に会えますね」

「うん」やっと会える。待ちくたびれちゃった。「ねぇ、ダン。雨の日でも会えるようにならない?」ヒナは伸びすぎた前髪を耳に掛けながら言った。

「もちろん。雨の日でも会えますよ。旦那様は立派な馬車をお持ちですから」ダンは事も無げに言い、ヒナの感情を逆撫でした。

「じゃあどうして来てくれなかったの?」ヒナは当然むくれた。むにっと唇を突き出し、鏡越しに髪いじりに夢中なダンを見る。

「さあ、どうしてでしょうね?もしかしたらロシターがダメって言ったのかもしれませんね」ダンは適当なことを言った。

「ロシタが!?」ヒナはショックで目を見開いた。

「まあ、ウェインかもしれませんけどね」やはり適当だ。

その頃、ウォーターズ邸ではロシターとウェインが盛大にくしゃみをしていた。

ダンはヒナの髪をすっかりまとめ上げると、ヘアキャップを素早くかぶせた。紐を引き絞り、簡単には脱げないように細工をする。朝まで脱げなければ完璧だが、半分でも頭に残っていれば上出来だ。

「ねぇ、ダン。アダムス先生ここに来れない?」

「アダムス先生?どうしてです?」ダンは驚いて訊ねた。

「勉強したいから」ヒナは小声でぼそぼそと言った。

「先生はお母様と一緒に住んでいらっしゃるから、ここには来られないと思いますよ。まあ、まずスペンサーがいいと言わないでしょうけど。どうして急にそんな事を言い出したんです?宿題を貰っているでしょう?」

「えっとね……」ヒナは口ごもった。あまりに情けなくて恥ずかしかったから。「読めなかったから」

「読めなかった?何をですか?」ダンはヒナと目を合わせた。

「スペンサーが見せてくれたもの。古い本。何が書いてあるのかぜんぜんわからなかったけど、恥ずかしくて言えなかった」ヒナは目を伏せた。今日見せられた『歴史書』というものは、どんなに目を凝らしても、見たことありそうな文字を探しても、何ひとつ理解できなかった。

「それでしゅんとしていたんですか?なにも言ってくれないから、てっきり僕には言いたくないんだと思っていましたよ」ダンはほうっと息を吐き、鏡台の上の片付けを始めた。

「言いたくなかった」ヒナは聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

ダンはやれやれと肩を竦めたけれど、なぜかその顔は満足そうに笑っていた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 212 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナがラドフォード館にやってきて一週間が経った。

すっかり生活に馴染んだヒナでも、朝起きてジャスティンが傍にいないことにはまだ慣れていなかった。

それはジャスティンも同じ。

ヒナを想って眠れない夜を過ごし、ベッドの上であっちへゴロゴロこっちへゴロゴロしながら、寝付けたのは夜が明け始めるほんの一時間ほど前だった。

なのでジャスティンの睡眠はたった二時間ほどで打ち切られる事となる。

ウォーターズ邸の朝は早い。屋敷を取り仕切るブリッグストンが早起きだからだ。

ブリッグストンはウォーターズ邸の使用人の例にもれず、長身で黒髪の中年男で、自ら用意した黒服を一分の隙もなく着こなしている。クロフト卿の屋敷で働くために雇われたのに、田舎勤めを余儀なくされているが、不満そうな顔は一度たりとも見せた事がない。

ウェインはキッチンで朝の挨拶を済ませ、ブリッグストンが用意したモーニングティーを手に主人の部屋へ向かった。

部屋へ入ると、トレイをサイドテーブルに置き、カーテンを開けた。

雨は上がっているが薄暗い。曇り空だ。

ウェインは振り返ってベッドの上の主人を見た。いつも通り裸だ。枕をぎゅっと抱きしめている以外はおかしなところなどない。

まるで子供みたいな寝姿にウェインは思わず顔を顰めたが、裸のヒナを抱いているよりもずっとましだと思った。あれは本当に目のやり場に困る。

だがヒナが傍にいない旦那様はひどく凶暴で、二日も会っていない状態ではうっかり近づいただけで首を取られかねない。詰まる所、枕を抱いているよりヒナを抱いていた方が、安心して仕事が出来るというものだ。

そもそも、毎日会おうと思えば会えるのだけれど、あの仕切り屋のロシターが『雨の日の訪問は控えてください』などと余計な口を挟んで、旦那様の機嫌をすっかり損ねてしまった。

ヒナのためだと言われれば、旦那様はロシターの言うことでも聞いてしまうのだ。僕が言っても聞いてくれただろうかと、ウェインは自嘲気味に思った。

「旦那様おはようございます。今朝もヒナからの手紙が届いております」

これは魔法のセリフだった。

この状況ではノッティが持ってくるヒナの手紙だけが救いで、これさえあれば、旦那様は機嫌よく目覚めてくれるのだ。

しかも今日はお隣を訪問できる。旦那様の機嫌は悪くなりようがない。

旦那様は呻き、何かを掴むように手を伸ばした。

ウェインは素早くヒナの手紙を差し出し、さっと後ろに退いた。うっかり殴られでもしたらことだ。

「暗いな。明かりを持て」

「かしこまりました」と言ったものの、まずは旦那様が目を開けることが重要だ。

寝不足なのか、目の下にくまがくっきりと浮かんでいた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 213 [ヒナ田舎へ行く]

朝食後間もなくして、裏口にロシターが現れた。

本日午後に旦那様が訪問するということを伝えに来ただけだったが、ブルーノの機嫌は驚くほど悪くなった。ロシターのことがあまり好きではないようだ。

ダンは少しばかり負い目を感じながらも、ロシターをお茶に誘った。談話室は解放されているし、隣人の使用人と情報交換したって問題はないはず。内容はブルーノには聞かせられないけど。

「旦那様の様子はどうですか?」ダンは椅子に尻が着くか着かないかで早速切り出した。この二日、姿を見せなかった理由が知りたい。なにか問題でも起こったのだろうか?

「あまりよくありませんね」ロシターは真顔で答えた。

「よくない!?病気ですか?」そんなことなら早く伝えて欲しかった。

「あれはもう病気と言うしかないでしょう。お坊ちゃまに会えないだけで子供みたいに拗ねて部屋から出ようとしないんですから」ロシターはにこりともせず言った。

冗談のつもりだろうか?笑ってくれたらわかりやすいのに。

「ヒナよりも子供っぽいところがありますからね」ダンは遠慮がちに微笑んだ。いま口にしたことが、そっくりそのまま旦那様の耳に入ったら大事だ。

「お坊ちゃまはどうされていますか?」ロシターは訊ね、コーヒーカップに手を伸ばした。飲んで、満足げに微笑む。

どうやらブルーノのコーヒーを気に入ったようだ。そうだろう。コーヒーが苦手な僕だって、ブルーノのコーヒーは特別だと思えたのだから。結局は苦手のままだけど。

「勉強を頑張るんだと張り切っていますよ」ダンは昨日あった出来事を手短に話した。古い書物を前に、なす術なくそれを見つめるだけだったことを。

「可哀想なお坊ちゃま。おそらく書体が古いものだったのでしょうね」

「かもしれません。僕は見てないので分かりませんけど、そのせいでヒナはすっかりしょげて……」ダンはヒナのしょげかえりようを思い出し、心を痛めた。

「それでお屋敷巡りはまた後日ということになったんですね」と、ロシターはダンの言葉をつないだ。

「あまり意味のあるものとは思わないんですけどね。でもまあ、伯爵の指示なので仕方がないです」

「意味がないとは限ら――」ロシターが急に言葉を切った。戸口を見たかと思うと、すでに空になっているカップに口を付けた。

「おかわりはどうだ?」背後でブルーノが言った。

突然の事に、ダンはヒィッと悲鳴を上げそうになった。もしかすると上げていたのかもしれない。恐る恐る振り返ると、仏頂面のブルーノがロシターを睨みつけていた。

ブルーノはいったいどこから話を聞いていたのだろう?

「いいえ、もう結構です。そろそろ戻らなければいけませんので」ロシターはそう言うと、カップを置き、立ち上がった。キビキビとした無駄のない動きだ。

「それは残念だ」ブルーノはまるで感情のこもらない口調で応じた。

「本当に」ロシターも同じく。

なんだか寒気がするのは気のせいだろうか?前後からびゅーびゅーと真冬の風が吹き付けているかのようだ。

この二人、そりが合わないのは明々白々で、本人たちもそれを承知でやり取りをするのだから、間に挟まれたダンはただただじっと身を縮ませているしかなかった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 214 [ヒナ田舎へ行く]

馬鹿みたいな話だが、ロシターに嫉妬した。

ブルーノは今の今までロシターが温めていた椅子に腰をおろすと、ダンに探るような視線を向けた。

ロシターに心を奪われてはいないだろうか?

そんなことを考えながら、ロシターが飲み干したカップに目を向けた。

コーヒーの味は分かる男のようだ。さらにはダンの良さにも気付いているらしい。

なかなか侮れない男だ。

「隣と仲がいいのはヒナとカイルだけではないようだな」

「あ、いえ……」ダンはポッと頬を朱に染めた。

なぜ赤くなる?まさかっ!

「都会もん同士、気が合うというわけか」腹立ちまぎれに吐き捨てた。

「そんなんじゃありません!ただ、ヒナが寂しがるので、もっとウォーターズさんに来て欲しいとお願いしていたんです。勝手なことを言ってすみません。ここは僕のお屋敷じゃないのに」ダンはブルーノの辛辣な言葉にショックを受けたようで、震える声で弁明した。

確かに、余所の屋敷に滞在している身で勝手に客を招くのはマナー違反だ。だが、ブルーノは言い過ぎた。その自覚は十二分にある。

「別にそのくらいはいい。ヒナのためにそうしたのは理解できる」慌ててこちらも弁明する。ダンの行為を非難するつもりはなかった。ただ無様にも嫉妬しただけだ。

「いいえ。僕が悪かったんです」ダンはそう言うと、立ち上がって談話室を出て行った。

「ちょっ、待て!」ブルーノが声をあげても、ダンは振り返りも立ち止まりもしなかった。完全に気分を害していたし、ともすれば怒っていたのかもしれない。

こんなつもりではなかったと後悔しても遅い。ダンが背を向けるという事は、これまで築いた信頼関係が崩れたという事。

その事実にブルーノは蒼ざめた。

ロシターなんかに嫉妬したばかりに、スペンサーに有利な状況を作ってしまった。

どうする?どうすればいい?

ブルーノはダンのあとを追うように談話室を出ると、キッチンに寄っていくつかの菓子を見繕った。いざという時の為に作っておいたチョコレートケーキも忘れずにトレイに乗せた。目指すは居間。

恐慌状態に陥ったブルーノは、あろうことか、ヒナに救いを求めるという愚かな決断を下してしまったのだ。

功を奏すればいいのだが。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 215 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナは図書室にいた。

前日ダンに言ったとおり、勉強に励んでいた。午後はジャスティンのために空けておかなければいけないので、午前中いっぱい頑張るつもりだった。

読みかけの本を脇に置き、ペンを片手に分からない単語を書き出すというもの。答えはヒューバートにお願いするつもりだった。きっと一番の物知りだから。

「ヒナ、おやつでもどうだ?」

誘惑という名の邪魔が入った。ちらりと顔を上げると、大きなトレイを持ったブルーノが窓辺に歩いていくのが見えた。

ヒナは書きかけの単語を最後まで書くと、ペンを置いて、インク壷に蓋をした。

「いただきます」返事に迷いはなかった。

窓辺の席に着くと、ヒナは首を左右に曲げてこりをほぐした。ペンを使うといつも首が痛くなるのだ。

「熱くない紅茶とシードケーキ。それと新作のチョコレートケーキだ」ブルーノはそれぞれ順に指を差した。

「新作?」ヒナは身を乗り出した。大好きなチョコレートがケーキになったなんて驚き。

「ダンにココアを分けてもらったんだ。トッピングにはチョコレートを薄く削ったものを乗せている。ホイップを付けながら食べると美味しいと思うぞ」ブルーノは取り皿に大きめにカットしたチョコレートケーキを乗せると、その隣にホイップクリームをたっぷりと置いた。

ヒナの目がきらきらと輝いた。ブルーノの新作は勉強で疲れたヒナを癒すにはもってこいの一品。

「ブルゥも一緒に食べるの?」ヒナは早速フォークを手にした。向かいに座ったブルーノを見てちょっと驚く。

「ヒナがよければ」

「いいよ。ひとりだと寂しいから」ヒナは慇懃に応じた。

ブルーノは苦笑を浮かべ、自分のカップに紅茶を注いだ。もちろんヒナと同じ熱くない紅茶だ。

「実はヒナに訊きたい事があって。いや、違うな。相談したい事があると言った方がいいか……」

「相談?」ヒナに?

「ん、まあ、そうだな」ブルーノは曖昧に口を濁していたが、やがてきっぱりと言った。「ダンを怒らせてしまった。どうしたらいい?」

ヒナは小さな口でチョコレートケーキをかじりながら、ダンを怒らせてしまった場合の対処法があっただろうかと考えた。機嫌が悪くなった時はそっとしておくのが一番だったけど、怒っているとなると話はまた違ってくる。

いったい、ブルゥは何をしてダンを怒らせちゃったの?

もしかして、とうとうキスしちゃったとか?

つづく


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ヒナ田舎へ行く 216 [ヒナ田舎へ行く]

「ヒナ、にやにやしていないでアドバイスをくれると助かるんだが。ほら、前回みたいににんじんスープを作ったら、とか?」ブルーノは溜息を吐いて、期待を込めて言った。今はヒナだけが頼りだ。

「にやにやしてないもん」ヒナは口をまっすぐに引き結んだ。けれども目だけは面白がるようにきらきら煌めいている。

「してた。言っておくが、ヒナが考えているような事は何もないからな」

ヒナが何を考えているかなど知る由もないが、ロマンス小説好きの頭で考えることくらいは予測できる。

「なにしたの?」ヒナは訊ねて、薄く削られたチョコレートを指先で摘んだ。手の中のチョコレートが溶けたのを見て、茶色くなった指をちゅっちゅと吸った。

「何と言うほどの事はしていない。ただ……」ロシターとこそこそしているのを見てすごく腹が立って、ダンに当たってしまった。正確に言うならこの通りだが、そんな恥ずかしいことを口にしなきゃならないのか?

無論、そうしなければヒナはアドバイスをくれないだろう。

とうわけで、ブルーノは渋々だが、ロシターへの腹立ちをダンにぶつけてしまったことを白状した。

ヒナは怪訝な顔つきで「ロシタに嫉妬したの?」と言うと、フォークに残ったクリームをぺろりとやった。

「そういうことになるな」ブルーノは認めた。

「その気持ち、ヒナわかるよ」ヒナがしみじみと言う。

本当に分かっているのかとブルーノは目を細めたが、恋愛とは無縁のヒナだって嫉妬くらいするだろうし(例えばお気に入りの隣人ウォーターズとおれが仲良くしていたとしたら、ギャーギャー言いながら飛びかかってくるだろう)、勝手に恋愛とは無縁と決めつけるほどヒナを侮ってもいけない。

「ヒナは好きな子はいるのか?日本に許嫁がいるとか」ふいに思いついた。ヒナはこの国には一時的に滞在しているだけで、生活のすべては向こうにあるのだ。日本に許嫁がいたっておかしくはない。

「ふぃあんせ?いない」

「まぁ、そうだろうな」当然といえば当然。

「好きな子もいません」ヒナは少し怒ったように付け加えた。自分の恋愛話はお気に召さなかったようだ。

「ん、そうか」それならどうして、ロシターなんかに嫉妬してしまった気持ちが分かると言うんだ?ああ、そうか。ヒナお得意のロマンス小説か。

「ヒナはウォーターさんが好きなんだから」ヒナは、わからず屋に言い聞かせるように一語一句はっきりと口にした。もちろんわからず屋はブルーノということだけれども。

ブルーノは笑った。
ウォーターズが好きだと?まったく。ヒナときたら、まるで餌付けされた野良猫並みだな。まあ、確かに、甘いもの好きには相当魅力的な隣人ではあるが。

「わかった、わかった。今はひとまずウォーターズの事は脇に置いて、ダンをどうしたらいいと思う?」

ヒナは子供扱いされたと思ったのか(実際子供扱いしたのだが)、憤慨した様子でぴしゃりと言った。

「謝ったら!」

つづく


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ヒナ田舎へ行く 217 [ヒナ田舎へ行く]

「あれ?ヒナどうしたんです?」ダンは目の前を横切ったヒナに声を掛けた。部屋に戻るところだったのでちょうどいい。

ヒナはぴたりと足を止め、首を回して不機嫌そうな顔をこちらに向けた。片方の手に勉強道具、もう片方には茶色い何かが乗った皿を持っている。

「ヒューに答えを書いてもらいたいのに、ヒューはおでかけしたんだって」ちぇっと唇をとがらせる。

「僕が見ましょうか?」ダンは気前よく言った。

ヒナは不満そうに目を細めた。スペンサーやブルーノがよくやる仕草だ。

どうせ僕じゃあダメですよ。ダンは不貞腐れた。

「それで、お皿に乗っているのは何ですか?」ダンはヒナの横に並んで素早く身だしなみをチェックした。珍しいことに、朝まとめた髪は綺麗にそのまま残っている。

「ブルゥの新作。ダンのココアが入ってるんだって」ヒナはにこっと笑った。機嫌は少し上向いたようだ。

「へぇ。僕にはそんなの出してくれなかったのに」ダンはがっかりした。いまだに招かれざる客だと思われているのだろうか?だとしたら、ちょっと寂しい。

「ダンが怒ったからでしょ」

「え、怒る?僕が?」ダンは驚いて思わず立ち止まった。ブルーノに対して怒ったことなんてこれまで一度もない。はず。

ヒナも立ち止まった。「ブルゥがロシタに嫉妬してダンをいじめたって白状した」ダンを見上げて、得意げな顔で言う。何もかもお見通しだよって顔だ。

「へ?」ロシターに嫉妬?それでブルーノはあんなふうな言い方を?「ああ、あれですか。僕は怒ってたんじゃないんですよ」急に笑いがこみ上げてきた。「いやいや、ロシターと情報交換してたんですけど、ちょっと油断してて、ブルーノに聞かれたかと思って慌てて逃げ出したというわけです」

「ダン、にやにやして変なの」ヒナは再び歩き出した。

「だって、ロシターに嫉妬なんて」どう考えたっておかしいに決まっている。

「ブルゥはダンがロシタといちゃいちゃしてたって言ってた」ヒナは自分の部屋の近くまで来ると、急に早足になった。

ダンも早足になり、ヒナを抜かした。「それは嘘ですね。ブルーノがそんなこと言うはずないでしょう?」

ヒナはへへっと笑った。「言ってない」

「でしょう。でもまあ、話を聞かれていなくて良かったです」今後は気を付けなきゃ。

ダンはドアを開けて、ヒナを先に中に入れた。ヒナは早速新作を置く場所を探してきょろきょろしている。

「そこのテーブルに置いたらどうですか?」炉棚の前の四角い小さなテーブルを指して言う。

「そうする」ヒナは勉強道具をベッドの上に投げ出し、いそいそと部屋の奥に進んだ。

やれやれ。あとでブルーノにおねだりしなきゃ。僕だって新作のケーキを頂きたいもの。

ついでに本当に嫉妬なんてしたのか確かめてみようか?

ダンは能天気なことを考えながら、ヒナが添削して欲しがっていた紙切れに目を落とした。

『官能の叫び』『非嫡出子』『密輸』

なんだこりゃ!?

つづく


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ヒナ田舎へ行く 218 [ヒナ田舎へ行く]

午後、ヒナはウォーターズと、恒例となった散歩に出掛けた。

といっても、ヒナは敷地から許可なく出られないので裏庭を散策するだけだ。

二日間降り続いた雨のせいで、足下が悪いから室内にいろと言ったのに、まったくもって聞きゃあしない。ネコを集めて遊ぶのだとか。

スペンサーはヒナに手渡された紙切れに目を落とした。紙切れと言うにはあまりに上質だ。

意味の分からない単語があるから教えて欲しいというが、こんなのどうやって説明すればいい?

『官能の叫び』

アレの最中に出る声だろう?あえぎ声というやつだ。

ヒナにそんなの説明してわかるものか。はい、次ッ!

『非嫡出子』

まあ、これならどうにか説明できそうだが、教えてもいいのか悩むところだ。

しかしまあ、ヒナが読む本というのは、不道徳極まりないな。これは子供の読む本じゃない。

ヒナは「ほんとはヒューにお願いしたかった」なんて言っていたが、親父に頼まなくて正解だ。本を提供した俺が怒られるところだった。

ただでさえ、気分がムカムカしているというのに、それに加えて親父にあれこれ言われでもしたら、自分でも何をしでかすのか分かったもんじゃない。

ああ、くそッ!それもこれもダンのせいだ。ダンがブルーノなんかと――ヒナの言葉を借りれば――いちゃいちゃするから。

昼食時のことだ。食堂に行くと、ヒナとカイルが先に席に着いていて、ウォーターズの話をしていた。まあ、これはいつものことだ。そしていつものように、ダンとブルーノが最後に料理の器を手に食堂に入ってきた。

ダンが少しだけ前を歩いていたが、その肩は触れ合わんばかりだった。その時点でかなりイライラしていたが、ダンがまるでブルーノに気があるような素振りで「約束ですからね」と言ったところで限界が来た。

何を約束したのかは知らないが、あまりに親しげな様子を見せつけられて、俺が黙っているとでも思ったか?ダンをブルーノから引き離すためなら、不道徳極まりない行為にだって及ぶだろう。

ダンにその気があるかないかなど関係ない。抵抗したってかまうものか。官能の叫びをあげさせてやる。

スペンサーはヒナから預かったメモ書きにすらすらと答えを記入していった。案外気が紛れる。ダンがいまどこで何をしているのかなど、まったく気にならない。ヒナから解放されて昼寝でもしているのか、それとも、ブルーノと地下に潜っていちゃついているのかなどと考えたりもしない。

だからわざわざ自分で茶を求めて、キッチンまで出向いたりはしない。

スペンサーはペンを置き、立ち上がった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 219 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナが外へ出てしまうと、ダンはすっかり暇になってしまった。

ロンドンのお屋敷にいるときには貴重な自由時間だったはずなのに、約束通りブルーノが新作のチョコレートケーキをごちそうしてくれたあとは、なにをしていいのやらわからないまま、ここに来ていた。

ヒナが渡した例のものが気になっていたからだと思う。あれを見た時のスペンサーの仰天した顔を思い出すと――

ぷぷっ。すごく笑える。

だって僕も同じように驚いたから。

きっとスペンサーは、ヒナの好きな本があんなに過激だとは思っていなかったのだろう。知らない言葉がまだまだたくさんあって本当によかった。全部を理解していたらと思うとぞっとする。

ただでさえ、僕よりも経験豊富だっていうのに。

「ダン、そこで何している?何か用か?」

たったいま入ろうとしていたドアとは別のところから、スペンサーが姿を現した。

やましいことなどひとつもないのに、ダンは飛び上がった。トレイの上の茶器がカチャカチャと鳴った。

「ああ、いえ。一緒にお茶でもどうかと思いまして」さすがに退屈で死にそうだから相手をしてくださいとは言えない。例え僕が暇でも、スペンサーまで暇とは限らないのだから。

「ちょうどよかった。お茶を頼もうと思っていたんだ。ブルーノは?」スペンサーはダンの背後に目を向けた。物陰からブルーノが出てくるとでも思っているのだろうか?

「カイルに頼まれて物置小屋の戸を直しに行っています。朝、見つけたんですって」

「物置?朝はそんなこと言ってなかったぞ」スペンサーの声音が変化した。自分に報告があがっていないのが気にくわないのだろう。

責められているのがブルーノなのかカイルなのか分からなかったが、ダンは二人の代わりにそれらしい説明をした。「うっかり忘れていたんでしょう。さっき慌てて言いに来てましたから」

「まあいい。茶にしよう。居間に行くか?」スペンサーは居間の方に向かって顎を突き出した。くつろぐには書斎よりも居間が断然いい。

「そうですね」はりきって返事をすると、スペンサーがトレイを奪ってさっさと歩き出した。

ダンはにこやかにあとを追った。

つづく


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